世界初鋳造製
ポットスチル「ZEMON」

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02 麦芽(モルト)

  1. 麦芽(モルト)について
  2. 蒸留所の規模を決める麦芽の袋の大きさ
  3. 年間のウイスキー製造量=1日あたりの仕込み数量×稼働日数
  4. 麦芽の種類 ノンピートかピーテッドか?
  5. 良質な麦芽で仕込む
  6. 官能での麦芽の品質チェック
  7. 麦芽の品種によってウイスキーの品質は変わるのか

麦芽(モルト)について

モルトウイスキーの製造には100%大麦麦芽(モルト)を用います。
麦芽(モルト)は収穫された大麦を一度発芽し、乾燥することで内部に酵素を作り出すことで製造されます。この工程を製麦(モルティング)というのですが現在のほとんどの蒸留所が専門の製麦業者(モルトスター)に製造を委託しています。もちろん、フロアモルティング等により自社で麦芽を製造することも可能ですが全量をまかなうのは設備や人手およびコストの問題から現実的ではないため、モルトを購入しウイスキー製造に用いるというのがメインになります。モルトの選択はウイスキーの蒸留所のスタイルを決定づけるものなので非常に重要なものとなります。

蒸留所の規模を決める麦芽の袋の大きさ

蒸留所を建設する際に最初に検討しなければいけないことは製造計画です。すなわち年間のウイスキー製造量となります。

年間のウイスキー製造量=1日あたりの仕込み数量×稼働日数

年間の製造量は販売見通し、貯蔵数量、在庫数量を勘案して決定することとなります。ウイスキーの場合は3年分以上の貯蔵スペースを確保する必要があるため製造量の多寡は経営にとって大きな影響をもちます。

1年間の稼働日数はメンテナンス期間や休日を考えると大体200日~300日となりますのであとは1日の仕込み数量が決まれば全体の数量が決定されることとなります。そのときに意外と重要なのが麦芽の袋の大きさでこの部分はサプライヤーに依存するため、これを基本単位として考えることになります。

サプライヤーによって25kg、500kg、1t(フレコン)、約16~17t(コンテナ)があります。ウイスキーの仕込みには400kg仕込みでバーボン樽1樽分(約200L)となるので、すくなくとも仕込みとしては400kgが最小となります。また、500kg袋は人手で扱えず、製造量としても中途半端のためあまり選択されることがありません。

麦芽の袋 1バッチ
仕込み
1バッチ
ニューポット量
特徴 蒸留所
25kg 400kg 220-240L 最も小さい仕込み単位。麦芽としても割高になるうえ、袋を一個ずつ手作業で投入するため作業の手間がかかる。一方で受け入れには特別な設備がいらず、また多様な麦芽をもちいることができる。 秩父第一
安積
長濱等
1t
フレコン
1t 600-660L 最も基本的な単位であり、多くのクラフト蒸留所が採用している大きさ。簡便な受け入れ設備で人手をかけずに作業することができ、コスト的にもバランスがいい。 三郎丸
厚岸
津貫
嘉之助
他多数
16〜17t
コンテナ
1t 600-660L コンテナごと麦芽を受け入れる方法。もっとも割安となるが、受け入れにはサイロが必要になる。また、仕込みごとに重量を計量する必要があり、設備的にも最も大がかりとなる。 静岡
遊佐等

その他に1tフレコンで仕入れ、1バッチ2tで仕込む(秩父第二)といった方法もあります。
1tフレコンの積み下ろしの様子。(三郎丸蒸留所)

麦芽の種類 ノンピートかピーテッドか?

ウイスキーの大きな魅力であるスモーキーな香り。このスモーキーな香りは麦芽がピート(泥炭)で燻されることによりもたらされ、ウイスキーに飲みごたえを与えます。麦芽のスモーキーさをあらわす数値として総フェノール値がありppm単位で表され、これによって麦芽の種類が大別されています。蒸留所としてどのような品質とスタイルを目指すかにより仕入れる麦芽の種類がきまってきます。日本のウイスキー蒸留所においては原酒の交換の歴史がなかったため、ひとつの蒸留所で複数の種類の麦芽を仕込むことがおおいですが三郎丸蒸留所のようにヘビーピートのみにこだわり製造をしている蒸留所もあります。使用する麦芽の種類は蒸留所のキャラクターを確立する重要な要素になるため、目指すウイスキーの姿をイメージしながら選択する必要があります。

フェノール値による麦芽の分類は時代背景や人によって認識に差がありどこからがミディアムでヘビーなのかは決まった定義はないためおおよその目安として記載しています。

麦芽の種類 フェノール値 蒸留所
ノンピート麦芽 0 グレンゴイン、ブナハーブン等
ライトピート麦芽 1-10 ブルイックラディ等
ミディアムピート麦芽 10-39 ボウモア、カリラ、タリスカー等
ヘビーピート麦芽 40以上 ラフロイグ、アードベッグ、キルホーマン等

フェノール値が高い麦芽をつかったからといって仕込んだ時にそのままスモーキーさがウイスキーに現れるわけではなく、粉砕や仕込み、ミドルカット等によって変化するのであくまでも参考程度のものになります。
また、ピートについてはその採掘場所―内陸or海岸で切り出されたものか―、どれぐらいの深さから切り出されたのか、その切り出し方についても香りや味に影響します。

良質な麦芽で仕込む

モルトウイスキー製造における良質な麦芽とはどういったものでしょうか?グレーンウイスキーの製造では酵素力(DP、アミラーゼ力価)が重視されることもありますが、モルトウイスキーの場合は原料の100%が麦芽になるので基本的には以下の3つの要素になるかと思います。

① エキス分(でんぷん)が多い。

アルコール収量に直結し、製造原価に影響をあたえる非常に重要な項目です。
水分(moisture,%)、可用性窒素(soluble nitrogen,%)、全窒素(TN dry,%)、予想アルコール収量(PSY,LA/t)、エキス収量(0.7mm)(Ext(0.7) %)

② 均一である。

麦芽の均質さに関するもので仕込みのオペレーション性(特にろ過)や品質の安定に関係します。
均質性(Homogeneity %)、粉砕性(friability %)

③ 安全である。

麦芽に発がん性物質やカビ等が含まれないこと。
ニトロソアミン(NDMA,ppb)
これらの項目はモルトスターごとに様々なスペックが設けられており、これらをクリアしたものだけがウイスキー用の麦芽として販売されています。この麦芽の分析値(Cropともいう)は麦芽を取り扱う商社からもらうことができます。

麦芽のスペックの例

項目 基準 備考
水分
(moisture,%)
<5.0 高いと単位当たりのコストが上がる。
6%を超えると保管や粉砕でリスクあり。
エキス収量
0.7mm(Ext(0.7) %)
≧77 粗挽きにした時のエキス収量
可用性窒素
(SNR soluble nitrogen,%)
<40 麦汁に移行する窒素の量、溶けの程度を表す
全窒素
(TN dry,%)
<1.6 麦芽中の窒素(タンパク質)の量。低タンパクの方が蒸留酒向きといわれる。
予想アルコール収量
(PSY,LA/t)
≧390 1トンの麦芽を仕込んだとき、純アルコール換算で何ℓアルコールが得られるかの理論上の計算値
均質性
(Homogeneity %)
>97 麦芽の均一性をあらわす指標、仕込みのオペレーション性に影響する。
粉砕性
(friability %)
≧85 粉砕した時の麦芽の均質さをあらわす指標
ニトロソアミン
(NDMA,ppb)
<3 ニトロソアミン(発がん性物質)リスク

実際のヘビリーピート麦芽のCrop例

PARAMETERS Specification Analysis
Min Target Max
Moisture % 4.5
Extract Sol(as is) % 77.2
Fermentability % 87.4
PSY(as is) Lpa/t 409
TSN % 0.57
SNR 37.5
Friability % 88
Homogeneity % 97
Screening<2.2mm % 1.6
Phenol ppm 52.0

主なモルトスターと取扱い商社

クリスプ・モルト 片岡物産、大西商事etc
ベアーズモルト 大西商事
マントンズ シーバックス
ポールズモルト 紅大貿易
シンプソンズ・モルト ブリューイングベター社

官能での麦芽の品質チェック

分析による麦芽の品質の確認も重要ですが自分の感覚で日々の仕込みのなかで麦芽をチェックするのも当然重要です。具体的には以下の点に注意するといいでしょう。

  • 表面に傷や虫害などがなく、粒の形が大きく均一であること。
  • 麦芽特有の爽やかで香ばしい香りをもち、鼻につくような異臭がないこと。
  • 麦芽をつぶしたときに内部が粉状になっていること。

麦芽の品種によってウイスキーの品質は変わるのか

基本的に麦の栽培農家は面積あたりの収量が多く、倒れにくく(背が低く)病気に強い品種を栽培します。そのため、ウイスキーの原料となる品種は激しく移り変わっています。そのため、特定の世代の品種にこだわるとかえって適正な量が確保できなくなり、スペックが落ちる可能性があるため、麦芽については一世代、2世代前といった麦ならば基本的には品種よりも品質を重視するべきだと考えます。もちろん製品コンセプトとして古代種をもちいるというのは大いに意味があることだと思います。