はじめに
麦芽を粉砕し、温水と混合し糖化することで発酵に必要な麦汁を抽出する工程を仕込みといいます。ここで得られる麦汁の品質が豊かな発酵に影響してくるため、非常に重要な工程となります。仕込みは粉砕、糖化、濾過の3つの工程に分けられます。
粉砕
最初にモルトを袋やサイロからミル(粉砕機)に移送します。ミルの直前には異物を除去するためのディストナー(除塵機)、モルトクリーナーやマグネットを設けます。マグネットは金属がローラーを通過すると火花を発生する場合があるので必ず用意したほうがいいでしょう。
粉砕は乾式と湿式のおもに2種類があります。湿式はメンテナンスが大変できれいな麦汁が取得しづらいため、ビールと違い麦汁清澄工程がないウイスキーは乾式粉砕が一般的です。また、ミルについても4本ローラー以上であればよいでしょう。
粉砕したモルトをグリストと呼びます。粉砕した麦芽の殻が麦汁をろ過するときのフィルターの役割を果たすため適切な割合で粉砕する必要があります。そのためにローラーの間隔を適宜調整し、3段のふるい(グリストセパレーター)によりハスクとグリッツとフラワーに分けて、重量比を計測することで粉砕度合いをチェックする必要があります。
一般的な粉砕の目安としては下記となりますが、マッシュタンの形状により最適な数値は変わってきます。濾過工程において粉砕した麦芽は沈殿して層になりフィルターのような役割を果たします。そのため粉砕を細かくすると清澄な麦汁を得やすくなりますが、過度に細かくすると麦汁の濾過渋滞を引き起こすため適切な粉砕を行う必要があります。
粉砕の目安
グリスト | ハスク (1.4mm以上) |
グリッツ (1.4mm~0.2mm) |
フラワー (0.2mm未満) |
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重量比 | 20-30% | 60-70% | 10%程度 |
原料の移送について
ミルに入るまでの移送ではモルトそのものを輸送するのでバケット、スクリュー、チェーンコンベア、空気搬送等の穀物を移送する際に用いる一般的な設備で十分です。
一方で粉砕後のグリストを移送する場合は粉砕粒度が変わらないようなるべく移送距離を短くし、残渣が残らないようにするためチェーンコンベアが適します。
糖化
仕込み水を温水にしてグリストと混合することで酵素が活性化しモルトに含まれるでんぷん分解し発酵性糖類を得る工程を糖化といいます。
※仕込み水の要件
無味無臭、有害物を含まない、亜硝酸、アンモニア性窒素が検出されない、有機物がすくなく(5ppm以下)、細菌酸度が低い(1.0ml以下)、鉄、マンガン、シリカが少ないこと等
仕込み前の準備として仕込み水をグリストと混合したときに65℃程度になる温度で温めておきます。量は仕込む麦芽の4倍量となります。仕込み水を入れておくのは保温能力が高いジャケットタンクを用いるのがいいでしょう。
最初にマッシュタンのスリット板の高さまでお湯を投入します。これを敷き湯といいます。これは粉砕した麦芽がスリットに詰まらないようにあらかじめスリット板の下部の空間をお湯で満たしておく意味があります。
その後グリストとお湯がプレマイシャー(フォアマイシャー)で混合し、マッシュタンに投入します。このときレーキ(解槽機)はグリストを均一にするため上のほうで回転させた状態にしておきます。投入が終わったらレーキの回転をとめて静置します。静置するとグリストが沈殿し濾過層を形成します。この過程で麦芽中のでんぷんは酵素により糖へと分解されていきます。酵素には主にαアミラーゼとβアミラーゼ、限界デキストリナーゼが関与します。
酵素名 | 至適温度(℃) | 至適pH | 失活温度(℃) |
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αアミラーゼ | 65-70 | 5.6-5.8 | 80 |
βアミラーゼ | 52-62 | 5.4-5.5 | 70 |
限界デキストリナーゼ | 50-55 | 5.1 | 65 |
糖化温度がどの酵素が活発に働くかに関係し、麦汁(ワート)中の糖組成に影響します。糖組成は発酵に関係し香味の生成に関与します。
濾過
静置が終わったらマッシュタン下部から麦汁を引き抜きます。最初の麦汁は濁っているのでいちどマッシュタンに戻します。これをサーキュレーション(循環)といいます。循環時間や循環流速によって麦層がしまるため、これらの要素も濾過性に関連します。
麦汁がきれいになったらバランスタンク(アンダーバック)を経由し熱交換器で麦汁温度は酵母が活動する20℃~22℃程度に冷やします。これによって得られる麦汁を一番麦汁といい、糖度は約20度になります。※熱交換に使われた冷却水を仕込み水タンクに戻すことで熱エネルギーと水を節約できます。このとき重要なのが濾過された麦汁と払い出す麦汁をバランスさせることです。強く引きすぎて麦層が締まると濾過性が著しく悪くなり、レーキを層にいれ解槽する(麦層を切って差圧を回復する)必要があります。そうすると、麦汁に濁りを生じ、清澄な麦汁を得られなくなります。
麦汁のクリア度による酒質への影響
清澄麦汁(クリアな) | 発酵時にエステルが多く生成し香味味豊かになる。 |
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濁った麦汁(ヘイジーな) | 脂肪酸がエステル生成を阻害し香味成分が少なくなる。 |
麦汁が濾過されて、麦層の表面約5センチに達したところで約80℃にした温水を均一に散布します。これをスパージングといいます。この時に得られる麦汁を2番麦汁といいます。スパージングにより麦層表面に凹凸ができることがあるため、レーキを麦層表面で回転させることでならします。2番麦汁の糖度は約5度です。1番麦汁と2番麦汁をあわせ1トンのモルトに対して5000リットル~5500リットルの麦汁を得ます。この時の糖度は約13~14度となります。
さらに製造所によってはより高い温水を散布することで3番麦汁、4番麦汁を得ることがありますが、この3番麦汁は発酵槽には送られず、次の仕込み水として用いることにより糖分を回収します。規模の小さく、一日一仕込みのクラフト蒸溜所においては3番麦汁による糖の回収は汚染のリスクもあり、収量のメリットも少ないため行わない蒸溜所も多いです。
最後にレーキを最下限で回転させ、麦芽かす(ドラフ)の水切りを行います。その後マンホールから麦芽かすを取り出します。ドラフは腐りやすいため近隣の酪農家等に引き取ってもらい飼料として有効に活用してもらいます。